模試を受け終わったあと、「今回はうまくいったけれど、本番もこの調子で大丈夫かな?」——そんな不安や期待が入り混じる気持ち、誰しもが経験することでしょう。
そんなとき、頼りになるのが統計的な考え方です。模試の点数を手がかりに、合格の可能性を冷静に、そして現実的に見通す手段として、正規分布やt分布といった“確率分布”を使う方法があります。
この記事では、特に「模試が複数回ある場合」に焦点を絞り、どの分布を使って合格確率を推定すべきかを、やさしく丁寧に解説します。
1. 正規分布とt分布の違いとは?
まずは基本的な違いを整理してみましょう。
比較軸 | 正規分布 | t分布 |
---|---|---|
母分散 | 既知 | 未知 |
標本サイズ | 大(n≧30が目安) | 小(n<30が目安) |
用途 | 確率評価、母集団の既知分布の仮定下 | 母平均の推定(母分散が未知) |
特徴 | 標準的な釣鐘型 | 山が高く裾が広い(小標本に対応) |
つまり、「データが少ないけれど、そこから母集団の特徴を知りたい」というときには、t分布の出番なのです。
2. ケース:模試が3回ある(65%、70%、73%)
たとえば、直近3回の模試でこんな結果が出たとします:
- 第1回:65%
- 第2回:70%
- 第3回:73%
平均点は69.3%で、合格ラインである65%はクリアしています。とはいえ、「偶然うまくいっただけかもしれない…」「本番で下がったらどうしよう」と不安になる気持ちもよく分かります。
ここで重要なのは、「この平均点がどれくらい信頼できるものなのか?」ということ。
👉 このように、少ないデータ(n=3)から母平均を推定し、その信頼性を評価したいときは、t分布を使うのが正しいアプローチです。
✔ t分布を使った推定の手順
- 平均値の計算
$$ \bar{x} = \frac{65 + 70 + 73}{3} = 69.3 \% $$ - 標本標準偏差の算出
$$ s = \sqrt{\frac{(65 – 69.3)^2 + (70 – 69.3)^2 + (73 – 69.3)^2}{2}} \approx 4.04 $$ - 標準誤差(SE)の算出
$$ SE = \frac{s}{\sqrt{3}} \approx 2.33 $$- ※標本標準偏差 $s$ の分母は「n−1(自由度)=2」でOK
- ※一方で、標準誤差 $SE$ の分母は「√n = √3」でOKなことに注意
- t値の計算
$$ t = \frac{69.3 – 65}{2.33} \approx 1.85 $$ - 自由度df=2のt分布で片側確率を求める
P(T > 1.85) ≒ 0.10- EXCELやGoogle SpreadSheetで求めるときの関数は下記のとおり。
=T.DIST.RT(1.85, 2)
👉 この結果から、90%の信頼度で合格ラインを超えていると読み取ることができます。
3. まとめ:統計の視点で安心を得る
状況 | 適切な分布 |
---|---|
模試が複数回あり、平均と分散を標本から推定 | t分布 |
模試の点数に一喜一憂するのは自然なこと。でも、統計という“物差し”を持てば、自分の立ち位置が少し冷静に見えてきます。
小さな標本からでも、正しく推論することで、未来への見通しはぐっとクリアになる。そんな力が、t分布にはあります。
焦らず、ぶれず、自信を持って——データは、きっとあなたの味方になります。