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ファンダムマーケティングを構造化する「共創構文フレーム」──Red Bullなど成功企業の設計図を言語化する

はじめに:なぜ構文フレームが必要なのか?

「ファンダム」とは、ブランドやコンテンツに対する熱狂的な支持を持つファンの集合体を指します。Z世代やα世代を中心に、「自分にとって意味がある存在」や「自分ごととして語れる体験」に価値がシフトしており、単なる商品機能や広告では心が動かなくなっています。

そこで重要になるのが、ファンとの共感・共創関係を構造的に設計・説明できるテンプレートです。それが、ここで紹介する共創構文フレームです。


✅ ファンダム戦略を整理・説明する共創構文

まずは全体構文をご覧ください:

[①企業]と[②共創ブランド]の共創は、
[③潜在的な欲求や課題]を抱える[④ターゲット]に向けた取り組みです。

この共創は[⑤ターゲットの従来の代替手段]とは異なり、
[⑥独自の提供価値]によって、生活や価値観に深く入り込み、

[⑦代表的な施策(3つ程度)]を通じて、
[⑧元々のロイヤリティ対象]を尊重しながら、
[⑨自社にロイヤリティが生まれる理由]によって[①企業]への共感と支持を育てます。

この取り組みには、[⑤従来の代替手段]と異なる
[⑩ターゲットが実感できる差別化ポイント(表面的独自性)]があり、
[⑪自社の従来の業界競合]とも異なる
[⑫他社が模倣しづらい圧倒的な競争優位性(内的独自性)]を備えています。

✅ 各構成要素の意味と設計上の注意点

項目説明補足と注意
①企業自社(施策を行う主体)例:Red Bull、BEAMS、Spotify
②共創ブランド共創する相手(IP・文化・コミュニティなど)例:エクストリームスポーツ、高校文化祭、インディーズ音楽
③潜在的な欲求や課題ターゲットが自覚していないが抱えているニーズ・不満安易に「人気IPを使えば売れる」と考えず、何の欲求/課題に応えるか仮説化が重要
④ターゲットコアになる対象層例:挑戦志向の若者、創造性を発揮したい高校生
⑤従来の代替手段ターゲットが既に用いている他の手段SNS投稿、自己表現アプリ、地元の催事など
⑥独自の提供価値自社×共創により提供できる本質的な価値「生活や価値観に深く入り込む」ため、再生・継続可能な体験設計が必要
⑦代表的な施策具体的な実施施策例:イベント開催、コラボ商品、プロモーション動画
⑧元々のロイヤリティ対象ターゲットが愛着をもっているもの例:競技文化、推しアイドル、地元文化
⑨自社にロイヤリティが生まれる理由共創を通じて企業側が得る好意・信頼「IPに対する愛着」と「自社への共感」を明示的に因果分離する必要あり
⑩表面的独自性ターゲットが一見して分かる魅力・差別化要素初期注目度を担うが、コピーされやすい
⑪業界競合同じ業界内のプレイヤー例:他のアパレル、他の配信サービス
⑫内的独自性他社が模倣困難な構造的強み長期的な優位性の鍵で、模倣困難性が肝要

✅ 適用事例①:Red Bull × エクストリームスポーツ

①Red Bullと②エクストリームスポーツの共創は、
③「限界に挑戦したいが、それを社会が認めてくれる舞台が不足している」
という課題を抱える④挑戦志向の若者層に向けた取り組みです。

この共創は⑤SNS投稿や一過性のバズとは異なり、
⑥“限界への挑戦”をリアルな舞台として証明できる体験提供により、生活や価値観に深く入り込みます。

⑦Red Bull Rampage、Air Race、Cliff Divingといった施策を通じて、
⑧「競技文化」への愛着を尊重しながら、
⑨“このブランドだけが自分の挑戦を肯定してくれる”という体験により①Red Bullへの共感と支持が育ちます。

この施策は、⑤SNS投稿や一過性のバズとは異なる⑩リアル挑戦×物語構築という表面的独自性と、
⑪MonsterやRockstarといった他のエナジードリンクブランドとも異なる⑫自社メディアRed Bull TVや世界的イベント育成による内的独自性を備えています。

✅ 適用事例②:BEAMS × 高校文化祭

①BEAMSと②全国の高校文化祭の共創は、
③「自分のセンスや創造性を発揮したいが、その場が限られている」
という課題を抱える④高校生に向けた取り組みです。

⑤従来のクラスTシャツや自己流の装飾とは異なり、
⑥BEAMSの審美眼と協働することで“表現の社会的承認”という価値を提供し、生活や価値観に浸透します。

⑦BEAMS SCHOOL PROJECTや文化祭Tシャツ制作、Web連載等を通じて、
⑧「学校文化」への愛着を尊重しながら、
⑨「BEAMSが私たちをクリエイターと認めてくれた」という経験により①BEAMSへの共感とロイヤリティを形成します。

この施策は、⑤従来のクラスTシャツや自己流の装飾とは異なり⑩「文化祭をBEAMSクオリティにできる」表面的独自性と、
⑪ユニクロやZARA、WEGOといったファッション業界の他ブランドとも異なる⑫地域・教育とファッションを結ぶ活動蓄積という内的独自性があります。

✅ 適用事例③:Spotify × マイナーアーティスト

①Spotifyと②インディーズアーティストの共創は、
③「好きな音楽を広めたいが、発信力が足りない」
という課題を抱える④音楽発掘志向のファンに向けた取り組みです。

⑤YouTubeやSNSのクチコミ拡散とは異なり、
⑥「自分で才能を広められる」体験(ファンが“音楽発掘者”として関与し、その影響力が実際の人気やライブ出演に反映される設計により、
聴く体験から昇華した“育てる体験”)により深く関与し、価値観に入り込みます。

⑦RADAR、O-EASTライブ、視聴データ活用などを通じて、
⑧「アーティスト発掘」という元々のモチベーションを尊重し、
⑨「Spotifyで発見・支援できる場がある」という構造で①Spotifyへの共感と支持が育ちます。

この施策は、⑤YouTubeやSNSのクチコミ拡散とは異なり⑩(リスナーデータに基づいたレコメンドや、Spotify独自のキュレーションがリアルイベントとの連動による)「アーティストを応援する体験」が一目でわかる形で可視化される表面的独自性と、
⑪Apple MusicやYouTube Musicなどの他の音楽ストリーミングサービスとも異なり⑫プラットフォーム・データ・ライブの垂直統合による内的独自性を備えています。

おわりに:フレームは「構造的な仮説」を可視化するツール

この構文フレームは、単なるテンプレではなく、「誰に、どんな仮説で、どう差別化し、どんな構造で継続させるか」を明示的に設計・説明するための戦略言語です。

施策を「なんとなくよさそう」から、「なぜ機能するかが明確な仕組み」に変える第一歩として、ぜひご活用ください。